ショートシナリオ集

現在勉強中のショートシナリオです

役員決め(身辺雑記)

<人 物>

北原 莉奈(38)会社員、二児の母

中村 敦(43)小学校教諭

 

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○区立明豊小学校・入口

少し古い、大きな校舎。

北原 莉奈(38)が、急いで中に入る。

 

○同・廊下

莉奈が「3‐1」の看板を見つける。

 

○同・教室内

教室には三十名ほどの父母が子ども用の椅子に座っている。

莉奈は自分の席を見つけて座る。

中村 敦(43)は教壇で話をしている。

中村「それでは、今年度の役員決めに入らせていただきたく存じます」

莉奈、下を向く。

決まり悪そうな中村。

中村「今年度の役員をやってくださる方は、どなたかいらっしゃいますでしょうか…?」

皆、沈黙のまま窓の外を眺める。

中村、冷や汗をかく。

『アザー・サイド』(課題/姉妹)

<人物>

杉本 祐希(48) 百合子の妹。会社員

高木 百合子(50) 祐希の姉。専業主婦

 

杉本 里子(79)祐希と百合子の母

 

 

春香(48)祐希の同僚

直美(52)百合子の友人

智絵(48)百合子の友人

 

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〇杉本家・リビング(朝)   

少し古いが整頓されたリビング。縁側には小さな庭が広がり、杉本里子(79)が花の手入れをしている。朝食の準備を終えた杉本祐(48)が里子を見る。

祐希「お母さん、朝ご飯できたよ」

里子「はい。ありがとう」

テーブルにはみそ汁、ご飯、おひたしや焼き魚など和食が並ぶ。向かい合い、対角線上に座りながら食べる二人。

里子「あ、百合子に連絡してくれた?」

少し嫌な顔をする祐希。

祐希「お母さんの米寿のお祝いのことだよね?まだしてない」

里子「久しぶりに顔見せなさいって言っておりてよね」

祐希「わかったけど…、自分で電話したらいいのに」

里子「自分のお祝いの事、自分から連絡できますか…」

祐希「はいはい。後でしておく」

 

○杉本家・祐希の部屋

デスクやベッド、チェストが置かれたシンプルな部屋。窓からは小さな庭が見える。デスクに置かれたパソコンで仕事をしている祐希。

ハッと何かを思い出し、スマホを取り出す。電話をかける祐希。

 

○東京あさひカントリークラブ・ゴルフ場

青空と緑が広がる美しいゴルフコースに、歓声が響き渡っている。

おしゃれなウエアを身につけた高木百合子(50)は、直美(52)、智絵(48)や他の仲間と談笑しながら場内を歩いている。電話の着信音に気付く百合子。

百合子「もしもし、祐希?」

祐希「あ、お姉ちゃん。今どこにいるの?」

百合子「若洲だけど。どうしたの?」

祐希「若洲って…、緊急事態宣言中なのにゴルフ行っているわけ?」

百合子「大丈夫よ。屋外だから。あなたはオフィス?」

祐希「自宅よ。テレワークです」

百合子「あら、そうなの。大変ね」

祐希「それより来月、お母さんの米寿のお祝いしないとだけど、どうする?こんな時だけど、家で一緒にご飯食べない?」

百合子「そうね。まかせるわよ」

祐希「お母さん、会いたいみたいよ」

百合子「わかった。じゃあまた連絡するわ」

祐希「ちょっと、出歩いてばかりいないで、少しは自粛してよね」

百合子「はいはい。切るわよ」

 

○杉本家・祐希の部屋

祐希「あ、切れた。ったく…」

スマホを置いて、またパソコンに向かう祐希。

 

○東京あさひカントリークラブ・レストラン

ゴルフ場が見渡せるクラシックなレストランで、百合子と直美、智絵がビールを飲みながら食事をしている。

直美「さっきの電話、例の妹さん?」

百合子「そう、本当マジメ過ぎて困っちゃうわ」

智絵「丸の内にある会社で、正社員で働いているんでしょう?すごいわよね」

百合子「中小企業よ。そこでちょっと役職についているからって、何かいつも偉そうなのよね~」

直美「でもフルタイムでバリバリ働いて、それだけでも尊敬しちゃう。私なんてブランクあり過ぎて絶対働けないし、そもそもどこも雇ってもらえないわ」

百合子「最近はオッサン化してきちゃって、見下されてる感じがするわ」

智絵「だけどお母さんとも一緒に暮らして、お世話してくれているんでしょう?」

百合子「逆よ!お母さんが家事全般やって、お世話してもらってるの。あの子はただ仕事だけしてるだけだもん。家事も育児もしないで仕事だけしていればいいなんて、本当ラクでうらやましい」

直美「妹さん、きれいな感じだったけどご結婚しないのね」

百合子「結局もてないのよ。良い家庭を築いていくことが、女にとっては一番幸せなのにね。毎日一人でワインばっかり呑んで、老後どうするのかしらね」

ビールを飲み干す百合子。直美と智絵は顔を見合わせて苦笑する。

 

○株式会社ヨミナビ・オフィス

きれいなオフィスのフロアで、マスクをしたビジネスマンが、人数はまばらだが忙しそうに働いている。

コンサバ系のファッションに身を包んだ祐希は、パソコンに向かって作業をしている。春香(48)が祐希を見つけて声をかける。

春香「久しぶり!最近ずっと在宅勤務だったでしょう。お昼どうする?」

祐希「あ、もうそんな時間?どうしようか。久しぶりに外出たいけど、お店の感染対策とかわかんないもんね」

春香「じゃあ無難に社食にしますか」

 

○同・社食・中

広々とした食堂。人はまばらで、間隔をあけて座っている。

× × ×

祐希と春香がカウンター席に並んで、無言でご飯を食べている。食後にコーヒーを飲み、マスクをつけながらしゃべり始める。

春香「そうだ、お母さんの米寿のお祝いどうなったの?」

祐希「こんな時だからね、母と私と姉三人だけで、自宅でご飯でも食べようかっていう話になってるの。母は姉の子どもたちにも会いたいんだろうけど、子どもは無症状で菌保有してるとかって言うし、ちょっとどうなのかなぁと思って」

春香「甥っ子って、もう結構大きいんじゃなかったっけ?」

祐希「高校生と大学生かな。姉の夫も、普通にオフィスに出勤してて、遅く帰って来るみたいだし」

春香「義理のお兄さんって何してる人?」

祐希「大手の総合商社で働いてる。オフィスここから近いわよ。姉は短大出てからそこの一般職で入って、三年もしないうちにお兄さんと結婚したから、ほとんどお金を稼いだことないのよ。ずっと専業主婦だし」

春香「そうなんだ~。優雅で羨ましい」

祐希「毎日ジム、ゴルフ、英会話とか習い事ばかりしてて、自分が楽しいと思うことにしか時間を使わない人だから。海外旅行とか友だちとのランチぐらいしか生きてる楽しみないんじゃない」

春香「でもお料理も上手だって言ってたじゃない。私たちにはわからない育児とか家事の大変さがあるんじゃないの?」

祐希「そうなんだろうけど、自分の価値観を押し付けてくるのがイヤなのよね。私は結婚してなくても毎日充実してるのに、いろいろとおせっかいだし」

マスクを外して珈琲を飲む祐希。

 

○英会話スクールクーバー・教室内

きれいな教室内に外国人の先生と数名の生徒が、帰る準備をしている。

デパートで売っている高級ブランドのカジュアルな服を着ている百合子。

百合子「グッバイ。シーユー」

メンバーに手を振る百合子。百合子の電話が鳴る。着信は祐希。

百合子「もしもし。どうしたの?」

祐希「お姉ちゃん、今どこ?お母さんが倒れたの。今すぐ来て」

取り乱している祐希の声。

百合子「え、どこにいるの?」

祐希「家に帰ってきたら、お母さんがリビングで倒れてて、全然動かなくて、だから救急車呼んで、今待ってるところ。どうしよう、お姉ちゃん」

泣いている祐希。

百合子「大丈夫?泣かないでよ。私もこれからすぐに行くから」

祐希「本当、ありがとう。あ、救急車が来たみたいだからまた連絡するね」

百合子「うん、わかった。大丈夫だから落ち着いてね」

 

〇杉本家・里子の部屋(夜)

和室に布団を敷き、眠っている里子。それを見守る百合子と祐希。静かに襖を閉める。

百合子「良かったわね。軽い脳震盪で」

祐希「私、ごめんね。気が動転しちゃって。でも、すぐにきてくれてありがとう。お姉ちゃんの顔しか浮かばなくて」

ぎこちない雰囲気の二人。

祐希「久しぶりに少し飲む?結構いいワインあるけど…。あ、でも車だっけ?」

百合子「うん。だけどせっかくだから頂こうかな。今日泊まっていってもいい?」

祐希「当たり前でしょう。お姉ちゃんの家なんだから」

微笑む二人。

百合子「でも、あなたちょっと飲み過ぎじゃないの?もしかしてアル中?一か月に何本ワイン空けてるのよ」

祐希「相変わらず失礼ね。そんなに飲んでないけど」

リビングのソファに座りながら、楽しそうにワインを傾ける二人。

棚に飾ってある写真立てには、子どもの頃の笑顔の百合子と祐希が写っている。